探索日誌『ONYXを目指して』(2)
「全員がレベル2になってからは、ずいぶん冒険が楽になったな。ワハハ」
とSSがでかい図体をゆすぶりながら笑った。同感だが笑うところじゃない。
地下二階で雑魚どもを蹴散らして、経験値とゴールドを稼ぐ日々が続いた。コボルドやゴブリンが15匹ほど群れをなして襲ってくるが、4~5匹蹴散らせばすぐに逃げ出していく。
時にはゴールドを置いて逃げていく。話のわかるやつだ。俺はあいつらとは仲良くやっていけそうな気がした。
だが、アンデッドはダメだ。ヤツラは死ぬまで向かってくる。不死を不死として扱っている。やばい。アンデッドやばい。
アンデッドの中でもスケルトンやグールは武器・防具を扱い、ゴールドも持っている。知能が無いわけではないと思う。しかし、逃げるという選択肢は考えられない――それが不死の代償なのだろうか。
全員がレベル4になったので、地下3回に降りてみた。さっそくMDがコブラに噛まれた。最優先で良い防具を与えているというのに。
「オ゛デだっで好ぎで噛ま゛れ゛でる゛わ゛げじゃ……」
いつにもまして割れた声で泣きごとを言いながら絶命した。
やれやれ。地上に戻り、MDをロードしなおしてやった。どこまでも足を引っ張るヤツだ。
MDに次いで足を引っ張るのがPCEだ。クリティカルを喰らいやすいMD、こまめにダメージを喰らいやすいPCEという感じか。
「Hu!死んでないんだから文句言うなよ!」
とPCE。しゃべる前にいちいち口笛を吹くのがむかつく。
コブラに悩ませられながら、しばらく地下3階で経験値稼ぎをした。4階には下りなかった。なぜなら面倒だったからだ。
「ピー!〝狂王の試練場〟でも地下6階で頑張るより地下3階でクリーピングコイン狩りをする方がおいしかったりするんだよな」
と知ったかぶりの豆知識を披露するDC。他のメンバーは誰も聞いてなかった。いや、聞こえないフリをしているのか。俺はDCと仲良くやっていけそうな気がした。
MD以外のメンバーがレベル6になったので、思い切ってクラーケン戦に挑んでみた。
「ぜがぁぁっ!!」
まっさきにMDが死んだ。一撃だった。
「Hu……」
次にPCEがやられた。これも一撃だった。どこまでも足を引っ張るやつらだ。
仲間を二人殺されたが、なんとかクラーケンを倒すことが出来た。期待したほどには経験値が入らなかった。もっと美味しいモンスターだと記憶していたのだが。記憶が美化されていたようだ。
MDとPCEが死んだのは運が悪かったからなのだろう。
その後、何度かクラーケンを退治したが、レベルが上がったわけでもないのに誰も死ななかった。全員がブロードソードを装備してからは、完全にカモと化した。
「クラーケンを倒せるようになったら、冒険も折り返し地点だ。明日以降にそなえて、ゆっくり休もう」
と俺は仲間に言った。
その夜、MDは宿を抜け出し一人で墓地に修行に行った。 あいつなりに気にしていたのだろう。
– (日誌2・完。もうちょっと続くかも)-