MOTHER3 プレイ記『鉄の温もり樹々の冴え』(1)
『MOTHER3』
(C)2006 SHIGESATO ITOI/Nintendo
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冒険以前
集まった一家は不安げな表情を浮かべ、せわしなく歩き回った。今から自分達の名前が変更されるのだから当然と言えた。
まず、〝おまかせ〟で付けられる一家の名前が確認された。
双子の弟、あまえんぼうの方ががリュカ。双子の兄、わんぱくな方がクラウス。父親はフリント。母親はヒナワといった。
クラウスは面白そうに言った。
「火打(フリント)に火縄?パパとママの名前ってなんだか物騒だね」
物騒……たしかに、物騒な名前だ。これから始まる物語を暗示しているのか。するとリュカとクラウスにも、何か意味が込められているのだろうか。プレイヤーは、そう、いぶかしんだ。
プレイヤーは『武器』(マール社)を開いたが、索引には〝リュカ〟も〝クラウス〟も見つからなかったので、それ以上詮索はしなかった。
一家の飼い犬の名前はボニー、好きな食べ物は〝ふわふわオムレツ〟、かっこいいと思うものは〝LOVE〟だと、リュカは言った。
プレイヤーはしばらく悩んだあげく、名前その他を次のように変更した。
名前変更
- リュカ(双子の弟) → チャー
- クラウス(双子の兄) → ミチ
- フリント(父親) → ダダ
- ヒナワ(母親) → ルリア
- ボニー(飼い犬) → フォービー
- ふわふわオムレツ(すきなたべもの) → あつあつポテトパイ
- LOVE(かっこいいとおもうもの) → キュービズム
プレイヤーは、命名の由来を話した。
「チャーとミチは私の名前から。ダダはダダイズムから。ルリアはシュールリアリズムから。フォービーはフォービズムから。キュービズムはそのまま。美術つながりだね。美術つながりにした理由は〝なんとなく〟かな」
「すきな食べ物は、1と2ではチョコタルトにしてたんだけど、
今回は家族の好きな食べ物ってことで、ポテトパイにしたよ」
ヒナワが不安そうにたずねた。
「このプレイ記も、ここからはその名前で書くんですの?」
「いや、〝すきなたべもの〟と〝かっこいいと思うもの〟は、自分の付けた名前で書くつもりだけど、みんなの名前はデフォルトのもので書いていくつもりさ」
プレイヤーがそういうと、一家に笑顔が戻った。
平和な始まり
ロックなBGMとともに、第一章の舞台のテロップが表示された。タツマイリ村‥‥龍参り村だろうか?ドラゴンでも棲(す)んでいるのか?一瞬、MOTHER2のタス湖のあのシーンをプレイヤーは思い浮かべた。
ベッドで眠りこけていたリュカは、クラウスの大声で目が覚めた。正確には覚めさせられた。
「いつまで寝てんだ!?ドラゴが赤ん坊をつれてきてるぞ!」
と、クラウス。
平和な始まり方だ。遊びに行こうとするリュカ。パジャマのまま外へ行こうとする息子を、あわてて引き止める母親。たわいのないことを話す家畜たち。
BGMは、〝MOTHER3 愛のテーマ〟をアレンジしたもの。
実に平和な、心が温まる情景。
リュカとクラウス、そしてヒナワは今、ヒナワの父親(リュカとクラウスにとっては〝おじいさん〟だ)の山小屋に遊びに来ていた。里帰りだ。
残念ながら夫のフリントはここにはいない。飼っている羊の世話のため、村に残ったのだ。
特に何も起らない導入部だった。ポルターガイスト現象も起きず、隕石が落ちるわけでもない。この導入の仕方を見て、プレイヤーはしみじみと3作目である喜びを味わった。
「冒頭に強引なツカミを持ってくる必要が無くなったということだよな」
と。
派手な展開がなくとも、ひとつひとつのメッセージからしっかりとMOTHERが感じ取れる。まるで退屈しない。長いあいだ待ち焦がれていたものがやっと手に入った、その喜びでプレイヤーの胸は一杯になった。
「しかし、歩く速度が遅いな。SFC版のDQ5並だ。いまどきのRPGでこの速度は辛いかも」
疑問はすぐに解けた。リュカがおじいさんから〝ダッシュ〟を教えてもらったからだ。ダッシュは溜めで発動するようだった。
「発動したダッシュは何かにぶつかるまで持続するのか‥‥。使いこなせれば敵の背後を取ったりと、アクションゲーム的な面白さが期待できるかもな」
プレイヤーは、そう心の中でつぶやいた。
夜 – 豚は舞い降りた
夕暮れ。ヒナワは夫に向けた手紙を伝書鳩に乗せて放った。明日には村に帰ります、と。
伝書鳩が飛び去ると、BGMの音調が崩れ山小屋に不気味な影がさした。何かの飛行物体の影だ。
プレイヤーは飛行機械に乗っていたポーキーの最後の姿を思い出した。
そして飛行物体の影が消え、タイトルロゴが現れた。金属と樹木の入り混じった、不気味なロゴだ。金属が樹木を侵食しているのか、樹木が金属を侵食しているのか。
夜になり、リュカ達のいる山小屋とタツマイリ村の間に広がるテリの森に、爆音が轟き火の手が上がった。
不気味な豚の仮面を付けた戦闘員達が、あちこちに爆弾をバラ撒いていた。
ようやくツカミのイベントが開始されたのだった。
ここでテロップ。「第一章 とむらいの夜」
誰かが死ぬのか?MOTHER1では、少なくともゲーム中に誰かが死ぬことはなかったはずだ。終盤でイブが破壊されてしまうけれども。MOTHER2でトンチキさんが死ぬのは、中盤以降だ。
MOTHER3では、第一章で人が死ぬのか?とプレイヤーは考え、いたたまれなくなった。
一方、眠っていたフリントは村人のトマスにたたき起こされた。
「大変なんだよ!こんなときこそ、あんたのような向こう見ずなナイスガイの出番じゃないか」
と。
〝向こう見ず〟という部分が気に障ったのか森に行くのを断ろうとしたフリントだったが、結局強引に連れ出され、何が起っているのか確かめに行くこととなった。
「言っとくがな、オレは向こう見ずじゃない」
フリントはそういうと、近くにいたカエルに話し掛けてセーブした。
そして、プレイヤーは満足気な表情で電源を切った。
– 続く –
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前ブログのコメント欄から転載
桝田道也 >MOTHER1では、少なくともゲーム中に誰かが死ぬことはなかったはずだ。
あ、フライングマンの存在を忘れてた。ごめんねフライングマン。