『スチームボーイ』 感想
原案・脚本・監督:大友克洋
やったぜ大友!マンガを描かずに(短編は描いていた)人生を9年使い潰しただけの仕事をやってのけやがった!
大人よりもむしろ、小・中学生必見の映画。小・中学生の頃に見た映画ってのは中々忘れないものだ。
そして、『スチームボーイ』は一生覚えておく価値がある。
ネットで前評判を調べると、映像は凄いけど話は…という感想が多かった。不安を感じつつ観にいったが、俺はストーリーも面白かったし映像からは生涯忘れられぬほどのインパクトを喰らった。
だから今から誉める。誉めちぎるぜ。
「『カリオストロの城』で一番好きなどこですか?」
こう聞かれたら俺の答えはこうだ。
「終盤、時計台の中の歯車の上での伯爵との追いかけっこのシーン」
「じゃあ『ラピュタ』では?」
「パズーが炭鉱で働いている所」
そんな俺なのでスチームボーイには体中のツボに鍼を突き立てられたように雷に打たれまくってしまったわけで。 もう、
歯車歯車歯車滑車滑車滑車ワイヤーワイヤーワイヤー鎖鎖鎖蒸気一輪車蒸気自走車蒸気カニロボ蒸気兵蒸気戦車蒸気飛行兵蒸気水中兵煉瓦煉瓦煉瓦煉瓦屋根瓦屋根瓦屋根瓦屋根瓦万博!ガラスのパビリオン!スチーム城!だ い え い て い こ く ぅ ぅ ぅ ぅ う う う っ ! ! !
これらが次から次へと壊れる壊れる。
大友克洋はシヴァ神なんじゃないかと思うほど破壊しまくるされまくる。
崩れる瓦礫に宙を舞う破片、飛沫は散り白煙黒煙が立ち昇る。
割れる。砕ける。軋む。歪む。折れる。倒れる。潰れる。ひしゃげる。
圧倒的な物量と克明さで描かれる破壊のシーンが『アキラ』と同様にやりすぎちゃってて
物語がそっちのけになってるんだけど、
「ここまでやられちゃあしょうがない。」
という実に大友克洋らしい映像だった。
キャラ造形に関して言えば驚くほどベタ。勧善懲悪の話ではないけど、一応の悪役となる主人公の父親は顔の右目から上が鉄兜で覆われちゃってるし。ヒロインは縦ロール髪のお嬢様だし。
「ベタやな~っ!ハイッ どーんどーんどーん ベタベッタッ どどんがどーん ベタでーす」
と安田大サーカスを口ずさみそうになるくらい見た目はベタ。
多少、大衆に迎合したのだろうか?性格設定は一捻りも二捻りもあるが。
世間的にストーリーがいまいちとされているけども。
個人的には
「『スチームボーイ』は大友版ラピュタと解釈するのが一番わかりやすいのではないか?」
と思った。
スチームボール=飛行石、父親=ムスカ、祖父=海賊の婆さん、と当てはめて。
だからラピュタの物語の問題点である
「凄い科学力を持つラピュタをアッサリ呪文一発で壊しちゃってメデタシメデタシってオイオイそれってどうよ?」
を踏まえておくとスチームボーイのストーリーは中々に面白い。
テーマの問いかけは主人公が劇中で発するように
「人類にとって科学とは何か?」
なのだろう。
ラピュタの場合は単純に
「オラ達の手に負えねえモンは持っちゃなんねえだ、くわばらくわばら」
で済ましてたけど、スチームボーイでは、そこまで単純な割り切り方はしていない。
問いへの答えは様々な立場にとっての様々な答えが用意されている。
父と祖父とロバートは直球で。
主人公とヒロインとデイビッドは変化球でその問いに答えている。
観客は自分に合った答えを見つけて、そこでカタルシスを得ればよいのではないかと。そういう意味では馬鹿にはちと難しい映画で万人向けではない。
もっとも俺は後半ずーっと、
「よく描いた!よく動かした!この9年は無駄じゃなかったよ!大友センセェーッ!!」
と変なカタルシスを感じまくっていたんだけど。
ちょっと半泣きで(←泣きのツボが間違ってる)
結論:これまでの大友作品のどれかに反応するセンサーを持った人なら、鉄板で大丈夫。
知らなくてもまぁ大丈夫。超娯楽大作だから。この絵描きバカ一代が十年使った成果を観にいくべし。
アキラと違ってグロいシーンは皆無なので、親子連れでも安心。
p.s.1:正直、この作品に関われた人たちが羨ましい。俺もこういう作品が描きてぇよ。
p.s.2:メモリーズ、メトロポリスはスルーして未見なんだけど、観たくなってきた。
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記事中、大友先生への敬称を省略してすみません。興奮した自分の気持ちと勢いをそのまま文章にしたかったのです。ご理解ください。