遠くへ行きたい。ママチャリで。
突発的に遠くへ行きたくなる。だいたいそういうときには青春18きっぷで一人旅に行くのだけど、たま~にママチャリで遠くへ行きたくなるときがある。前回は 2008 年だった。
前回は海に行ったので、今回は逆方向へ行きたい。場合によっては野宿もアリで。 仕事がきっかけとはいえ、お城を見て回るのが趣味になってしまったので、埼玉方面の城を見て回るのだ。
綿密な計画を立てた。
- 川越街道を北上し川越城本丸御殿を見る
- 時間と体力が大丈夫なら、吉見町の武蔵松山城と吉見百穴を見る。大丈夫じゃなかったら引き返す。
- 時間と相談して、行田市か群馬県大田市のどっちかに向かって、適当なところで野宿するかネットカフェに泊まる。体力的に無理だったら引き返す。
- そこから後は行き当たりばったりで、ひとつよろしく>未来の自分
なんという緻密で完璧な計画だろう。
山の城へ行くのでトレッキングステッキなども買って、さぁ行くぞ!……ってなったときに、マンガの執筆依頼が来た(歴史魂)。なかなか連絡が来ないから打ち切られたんだとあきらめてたのに。
つってもページ数は少ないので、いつまでにネームを出せばいいか確認した上で、出発した。 週刊天気予報は「晴れ、ときどき曇り」が数日続くとのことだった。 もちろん、いつものくせで東京の天気予報を見ていた。 いまから埼玉・群馬に行くということが、そのときすっぽり脳から抜け落ちていた。
8/04
朝、五時半に出発。
インベーダーゲームコーナーの看板。個人的に重要文化財に指定したい。
顔に見えすぎる。
低い!低いよ!
寄り道してたら日中に目的地に辿り付けない、というのを前回のママチャリ遠征で学習したので、良さげな村の鎮守や小さな公園があってもスルーしてたのだけど、これはたまらず寄ってしまった。浅間富士見神社。バカだから高い所には目がなくて。
噴火口のイミテーションまで作ってしまった、なかなか気合の入った富士講。
川越市喜多院到着。
あさごはん。腹ごしらえ。ピンク色のは手製のサウザンアイランドソース。ピクルスが入ってないからサウザンアイランドとは言えないかもしれないが。
これでね。食パンならどこでも補給できるし、食費がおさえられるぜー! なあに、二日ばかり炭水化物オンリーでも死にゃしねぇよ……と思ってたんですよ。 ご当地の名物とか食べる気まるで無し。迷惑な旅行者だ。 というか、旅行=うまいもの、な人には理解できない振る舞いなんでしょうな。
しかし、そう甘くはなかった。その、飽きるんですわ。おなじ味、同じ食事に。 空腹だし、けっしてまずくはないのに、食パンを飲み込む命令を出すのを脳が拒否する感じ。
戦国時代の籠城戦で、餅だけはたくさんある。毎日、餅。空腹なのに食べ飽きて泣きを入れてる雑兵の談話があったと思うけど、その気持ちがよくわかった。
栄養が偏らないようにするための本能なのかもしれない。
喜多院
さて、喜多院。歴史的建造物という意味なら、川越城よりこっちの方が充実している。
家光が生まれた部屋とか、見たいものもたくさんあったんですが……まだ朝早く開場時刻でなかった。 開場まで待つ時間がもったいない。今日はもっと先まで行かねばならないのだ。
渡廊の外からカメラだけつっこんで写真を撮って、
「もし開場してたら、こんな構図で獲るなんて考えもしなかっただろう」
と良かった探しをして、むりやり納得してあきらめた。
まぁ、川越なら(ママチャリで)日帰りできる距離だし。またこんど。
私は手水舎でうがいまでする人間なんですが、これからはやめようと思った。ドバト……
夏だーっ!!
…………(こわい考えになってしまった ><)
ヲンカカカビサンマエイソワカッ!なるほど、わからん!
……というあたりで喜多院を後にして、川越城本丸御殿へ。いや~良かった。
本丸御殿も無事に見物できて、喉が渇いてきた。そうだ、水筒の水を飲もう。
これが水筒。と呼んでいる空き缶。巻いてあるのは濡れたスポンジ。これにより気化熱で中身が冷やされるという寸法ですよ。砂漠の民の知恵ですよ。さて、温度はどれくらいかな~?
気温 33 ℃ に対して管の中身は 26 ℃ ……微妙……。すくなくとも「良く冷えている」とは言えない。
ホントかどうかはともかく、砂漠だと瓶に入れてた水が気化熱で冷えて凍ることすらあるとか。 もっと適切にやればより冷えたのかもしれませんが……。 たぶん、揺れるから冷えにくいんじゃないかなー。
でも、 26 度にしか冷えなくても、これはこれでアリだと思うんですよ。 保温力の高い水筒はたしかにずっと冷え冷えかもしれないけど、 夏なんてすぐ飲み干しちゃうし、都合よくコンビニがあって氷水が補充できるとは限らない。
でも、この空き缶濡れスポンジ(タオルでも可)水筒は、そこらの公園で補充できて、ほっといたら 30 ℃とかになっちゃうのを 26 ℃にしてくれる。
そのうえ、置き忘れてもショックが小さいのです!(えへん)
……さて。
喜多院も川越城も良かったけど、川越市はなんといっても街並みが良かったのだった。
川越市の街並み
こういうのが、そこらじゅうにあるんだもんなぁ。集中してるのは観光案内板にもでてる「蔵造りの街並み」だけど、そこ以外にもあちこちに良い建物がある。
これがその「蔵造りの街並み」。見た瞬間、おおっと思いましたよ。
「電柱・電線が無いっ!」
……川越市のやる気が伝わってきた。
ちょっとまぁ、観光地化しちゃってて、いかにも古道具屋から買ったっぽい古看板や古道具を飾ってる店がチラホラあった。そういうのはちょっと……と思うけど、まぁしかたが無い。 細かい不満はあっても、全体としては素晴らしすぎる。ほんと、数日泊まってブラブラしたい。 旅行者でこの街を嫌いになれる人なんているんだろうか?
8月だったけど七夕祭り中。旧暦?文面は
「幸せが長く続きますように」
とか、そういう意味だろう。ぱわぁど、ばい、えきさいと翻訳。
時の鐘通り。アイスの誘惑を断ち切るのが大変だった。
「灰になるまで high になれ!」
か……。うん、キミたちにオヤジギャグを馬鹿にする権利はありません。
蔵造りの街並みの一角を外れると、電柱復活。でも、このあたりはこのあたりで自然体な感じの古さで良かった。昭和のかおり。個人的にはは電柱、嫌いじゃないし(そりゃあ、古建築や名勝で電柱だらけなのは私も閉口するけど)
あと、川越市は観光案内が充実してて良かった。ここに欲しい!ってツボを突いた場所に設置してあって。
情報量が多すぎて見づらいと思う人も多いかもしれませんけど、情報が不足するよりははるかにありがたい。
市街地を抜けると田園。あれだな、夏の匂いとかいうやつの正体は、イネ科植物の匂いだな。たぶん。
これを描いた子もそろそろ三十路かな。
山田地区は味のある看板が多くて困る。
パ行の音が入るとがアイヌの地名っぽくなる。
正直、スルーした(ママチャリで)
八丁湖と吉見百穴
川越城を見たし次は吉見町の武蔵松山城だ!ってことで吉見町へ向かってチャリを漕いで、 ……迷ってしまった。あげく、「八丁湖」なんて場所に入り込んでしまった。
武蔵松山城は有名な吉見百穴のすぐそばなので、 吉見百穴の案内板ならあちこちに出てるだろう~と思ったんですよ。 そうでもなかった。
しかし、この八丁湖、半円型で小型とはいえ「ダム穴」があった。ひゃっほー!
うーむ、ロックフィル・ダムってやつか……?とか浮かれてたら、雨が降り出した。強制的に雨宿りタイム。あれー?天気予報では晴れときどき曇りだって……あ!
(ようやく、東京地方の天気予報しか見てないのに思い至った)
……まぁ、なんとかなるさ。たぶん。
雨が弱まってきたので八丁湖周辺を散策。黒岩横穴群。場所的に、吉見百穴の親戚みたいなもんですね。
なんか、幼少期に読んだときに誤解したのか、ずっと吉見百穴のことを古代人の住居だと思ってましたけど、古墳だったんですね。議論の余地なく、お墓で正解らしい。 それまでの古墳が、埋めたら二度と使えなくて不便だから、横穴にすれば次から次へと押し込んで埋葬できてバッチグー!なのが、これらの横穴なんだとか。
場所は遠く九州と離れるけど、人吉の大村横穴群も、やっぱりお墓だったっけ。
そうこうして、八丁湖を離れて改めて武蔵松山城に向かったら……ふたたび雨。吉見観音(安楽寺)で雨宿り。こんなはずではなかった…(天候的な意味で)
雨が上がった吉見観音は大変美しくて、じっくり回りたかったけど、予定が狂い出したのであきらめた。
やっと晴れてきた……と思いきや、武蔵松山城についたころにはふたたび雨模様となった。 小雨が降る中、滑る山道をなんとか登城。
縄張りはすごかったけど、雨で思うように写真も取れないし滑って危ないので、みっちり回らず本丸と二の丸周辺だけ見て退散。あと、あれですね。やっぱ山の城は夏に行くもんじゃない。
みたび雨が激しくなったので、吉見百穴に飛び込んだ。施設にですよ。穴で雨宿りしたわけじゃない。
まぁ、穴にも入ったんですけどね。
迷走しだす計画
さて、雨が上がった時点で夕方の五時ごろ。どうしたものか。
とりあえず体力的に、二泊三日で寄居町の鉢形城や嵐山町の比企城館跡群を見るのは無理だと判断し、そっちはすっぱりあきらめることに。
一泊二日コースで、残る予定の城は埼玉県行田市の忍城と群馬県太田市の太田金山城。 じゃあ近いほうに行こうかってんで、行田に向かった……これが間違いだった……。
川幅日本一。どうでもいい日本一ランキングがあるとしたら優勝候補。
埼玉のシャンゼリゼ……と一部の人がネタにしている、鴻巣市吹上団地の送電鉄塔。 2011-08-15 の時点で、まだ Google ストビュー 無し。うむぅ。
ストビュー来てた!
大きな地図で見る
ここで日没。
行田に着いて夕食。
「食パン以外のものを食べてくれ!」
と体と脳が悲鳴をあげるので、リンガーハットのチャンポン。
行田についたはいいが、当然ながらお城はもう閉まっている。
ネットカフェも見当たらない。そういうのを検索できるモバイル端末も持ってない。 さりとて野宿しようにも、不良が怖い。雨も怖い。寝袋は持ってきたけどテントなんか持ってない。
ここで、脳が疲労でだいぶイカれてしまっていたらしい。
「太田市のネカフェに泊まろう。どうせ忍城なんて模擬天守の(略)だし、太田市に向かおうぜ!」
そう、思ってしまった。行田から太田市まで約 23 km 。時刻は 19 時 30 分。
だいぶ疲れてた体に鞭を打ち打ち、太田市へと向かった。
世は 311 以降の節電モードで街灯が消えまくり。
車のライトがまぶしい。自転車の弱いライトでは少し先も見えない。田んぼに落ちるのではないかと恐怖して速度が出せない。側溝にフタがしてあるのかどうか見えない。 何度も街路樹の壇に乗り上げそうになる。ススキが道を塞いでいるのに突っ込んでから気づく。
よくまぁ、死ななかったものだと思う。というか何度も、
「ここで自転車を降りて夜明けまで野宿しろ!死にたいのか」
と心の声が聞こえ、直後に
「こんな幹線沿いで寝られるか!回復するものも回復できなくなるわ!」
と打消しが入る。だけど幹線を離れたら迷子へ一直線だ。
国境の長い橋をこえるとグンマーであった。夜の底は黒いままだった。
たぶん、時速 5km くらいまで落ちてたと思う。田んぼや側溝に落ちないように、 ゆっくりゆっくり慎重に漕いで、ようやく 23 時ごろネカフェに到着。 マンガも読まずアイスも食べず、ただただ眠るように眠った。 結局、使わなかった寝袋は良い枕になった。
8/05
朝。だいぶ回復した。体はきしんでいるが出発。群馬は小雨が降っていた。こんなはずでは……
雨はすぐに止み、陽がさしてきた。最高だ!群馬最高!
と思ったら道に迷って熊野神社に来てしまった。写真の未来ロボは、何をリサイクルしたものだか不明。鋳物っぽかったが……。
素敵な屋根。整然としていない瓦ってなんでこんなに魅力的なんだろう?
このあと、また天気は崩れ、わざわざ山頂まで自転車という愚行をしながら太田金山城を見物した。
雨でも、死ぬほど疲れてても、それだけする甲斐があったと思える良い古城でした。
ふもとの大光院。子育てにご利益のある有名なお寺らしかった。
長念寺の門。お寺の門にしてはメカニカルでかっこいい。お寺の門じゃないと思うけど。
帰路
さて、あとはまっすぐ帰るだけ……やややっ!?
給水塔?かかか、かっこええ~~~。昨日、この辺を通ったときは夜だったからな~。
高林給水塔と言うらしい。
真っ直ぐ帰ると言った舌の根の乾かないうちから、これだ。
熱中症対策。塩飴なぞという中途半端なものは使わん!
どうして、帰るとなると晴れるんだろう……
そして熊谷に着いたのが正午すぎのころ。ふと思った。
「忍城見て帰れるんじゃね?」
よせばいいのに。もうだいぶ体力、限界だったのに。
行ってしまった。
時間も体力も押していたので、パッと見て回っただけ。やっぱり模擬天守はガッカリだった。
ゼリーフライは美味しかった。好きな味。ゼリーじゃない「フライ」は屋台で食わせるようなものじゃないのかな?食べることかなわず。
看板に、「焼きそば・フライ」と書いてある店は、たぶん名物の「フライ」ことなんだろうけど、万が一、単なる揚げ物だったらいやだなぁ、と思うと入るに入れなかった。
だからまっすぐ帰れってばよ自分
八高線かな?と思ってた。正解は高崎線。八高線だったら大変だよ。八王子に行ってどうすんだ?>自分。
田んぼと電車が写ってりゃ良い鉄写真なんだろ~~~(大偏見)
元荒川の榎戸堰。まっすぐ帰れよ。
おそらく地元の名士であろう、榎戸堰公園の代田仙三郎爺の碑が軽くホラー。
ヒマワリ。まわれまわれ。地球を7回半、まわれ。
http://portal.nifty.com/cs/catalog/portal_koneta/detail/1.htm?aid=110808146637 コネタ城にも投稿した、水道橋としてはおそらく日本一の長さの荒川水道橋。
このおっさん、私が写真を撮ってるのを確認して、私の前に立ってポーズを決めやがった。 フレームに通行人が入っても気にしない(むしろ、アクセントだと思って積極的に通行人を入れて撮る)私だけど、このときばかりは軽くイラついた。
埼玉ひろい。
「♪おとーさん、おとうさん、そこに雨雲がいるよ」
「♪ぼうや、あれは雨雲だよ~」
(意見の一致)
なんとなくフォトショでコントラストを強調してみた。
サイクリングロードは良い。自販機やコンビニが無いことを除けば。自販機やコンビニが無いから良いのだ、とも言える。喉が渇いてないときには私もそう思う。
マンガみたいなポーズで死んでいたカエル。かわいそうだけどゲラッゲラ笑ってしまった。
鳥獣戯画はリアリズムだったんだ!
びん沼川。埼玉のヘラブナ釣りのメッカらしい。すごく青い色をしてるのは、そろそろ夕暮れだったから光線の具合じゃないかな。
難波田城公園。富士見市にそのようなものがあるのを知らなかったし、 ここを回れば二日で5つの城を回れたのだけど、 残念ながら閉園五分前だった。移築古民家もあるらしいので、いつか行くと思う。
夕暮れ。旅も終わりぬ。
……って、そんなことなかった。まだ、このとき志木市か朝霞市だ。ここからが地獄だった。
疲労で幻覚が始まった
ここまでは、疲労でのろのろと自転車を漕いでは、
「バイオハザードの、あと一発で死んじゃう状態」
を連想していた。でも、もうそんな余裕もなくなった。疲労で幻覚が見え出したのだ。
といってもピンクの像が~とか楽しいものじゃない。ずっと地味。
向うにトンネルがあるな~と思ったら、大きな樹だったとか、 自転車に乗った人が二人、近づいてくるな~と思ったら一人だったとか。
そんな状態で日没を迎え、東西南北がわからなくなりさらに迷う。 同じ道はつまらないからと幹線を離れてたのが裏目に出る。 こんなとき車だったら路肩に止めて一眠りできるけど、自転車はそうはいかないのだ。 ベンチ的なものが欲しい。公園か神社はないのか。 もはや帰宅するのが目的か公園を探すのが目的かわからなくなってる状態。 東京都まであと少しの和光市の住宅街でこのまま野宿か……と思ったものの、 最後の力をふりしぼってなんとか帰宅できたのでした。
その最後の力を生み出したのが、自販機の百円のビタミンジュース。 あんなもん効いたためしがないと思ってた私でしたけど、 極限状態だと確かに効いた。 単に糖分が効いただけかもしれないし暗示によるものかもしれないけど、確かに効いたのだった。
帰宅。走った!漕いだ!焼けた!
「死んじまったらいけねぇよ。おまえさん、馬鹿なんだから、気をつけな」
へぇ、すんません。
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ゆーじ先生 か、カエル……(^_^;)。
桝田道也 埼玉は驚異に満ちていましたわ。
ゆーじ先生 さすが、秘境グンマーへのゲートとなる地だけある。