東京の鉄板観光物件に入れていいのではないかと思うほどに最高だった国立天文台三鷹キャンパス
訪問日は 2016-07-17。
三鷹の機械遺産、しんぐるまを楽しんだあと、さて、どうしようかと。
ママチャリで約 20km を漕いで来たからには、古民家ひとつで帰るのはもったいない。さいわい、このへんはけっこう面白そうなスポットが多いのだ。調布飛行場に国際基督大学などなど。
なぜ、小金井や小平に住んでいたときに訪れなかったのか。まあ、過去は過去だ。過ぎたことを悔いてもしかたない。
というわけで、とりあえずは予定通り、しんぐるまからもっとも近い、国立天文台三鷹キャンパスに向かった。
なぜなら、国の重文や登録文化財がいくつかあるからだ。私は、特に天文趣味は無い。
残念ながら、10歳のとき、溜めたお年玉の使い道は望遠鏡ではなく顕微鏡だった。
というわけで、わりと軽い気持ちでの訪問であり、さして期待して訪れたわけではなかった。
入場時に記名が必要だったような記憶があるが、もう一年以上前なので、よく覚えていない。
国立天文台はいまなお観測中の研究施設だ。見学できるのは一部のエリアのみで、研究棟のひしめくエリアは一般人立ち入り禁止となっている。
この施設は名を第一赤道儀室という。国立天文台三鷹キャンパスのなかでもっとも古い建物で、国の登録有形文化財に指定されている。
ここで空想上の後頭部を空想上の鈍器でガツンとやられた。空想上の雷が直撃した。
この味わい、古び方、人類の英知、学問愛、知識欲、文明崇拝、さまざまな思いが身体をかけめぐる。
感動せよと脳が命令している。
これに感動できずして、なんの人生か。
ああ、こういうの『ゼルダの伝説 風のタクト』で見た。そういう感動のしかたで悪いか?
もう、蜜に吸い寄せられるハチも同然。フラフラとのぼせた頭で中へ入っていく。
この建物には解説員の方がいた。機械がイタズラされないように監視もかねていたのだろう。なにか説明を受けたような気もするけど、覚えていない。話なんか耳に入る状態じゃなかった。
この望遠鏡はカール・ツァイス社製で、1998 年まで、60 年にわたり太陽の黒点の観測などに使われた。 1998 だって!ついこのあいだじゃないか!(中年以上は、みなさん、そうおっしゃいます)
電気ではなく、速度調整機構付重錘式時計駆動により天体を追尾する赤道儀なのだという。
速度調整機構付重錘式時計駆動!!!ものものしいにもほどがある。
こういう、テクノロジーに感動するというのは、あまり一般的な感覚ではないのだろうか。
ガッカリ観光地の筆頭に挙げられる札幌時計台も、中に入って時計機構などを見たら、
「どこにガッカリ要素が?すげえ良いよ!」
と思ったものだ。
考えても仕方がない。もし、あなたが札幌時計台の中に入り、楽しめたのなら、国立天文台三鷹キャンパスは鉄板だ。まちがいなく。
建物から出て、深呼吸。すこし落ち着いて、順路に沿って、次の施設へ。
盛夏のまっさかりで樹々がおいしげり建物をうまく撮れなかったので、早々に退散。
アインシュタイン塔というのはもちろん通称で、正しくは太陽塔望遠鏡と言う。こちらの名前も強い。
その名の通り、塔そのものが望遠鏡になっている。アインシュタインの予言したアインシュタイン効果を観測するための施設であったが、この建物での観測は成功しなかった(アインシュタイン効果はのちに別の手段で観測された)。
ドイツのポツダム天体物理観測所のアインシュタイン塔と同じ目的で作られたわけであり、建物としてもほぼ同じだそうだ。
国の登録有形文化財に指定されてはいるが、形も古び方の味わいも、私の好みではなかった。
なお、一時期は通風孔から入り込んだハクビシンの住処と化していたそうで、建物の周囲も猛烈なブッシュだったそうだ。
ちょうど 2017/11/5 にこんなツイートがあった。
三鷹のアインシュタイン塔「内部を公開したいのはヤマヤマなのだが整備が超面倒くさい」天文台のえらい人談話。それでも最近はアプローチきれいにしてベンチも設置された、むかしはブッシュを掻き分けやっと到達できた。 – 高木壮太 @TakagiSota
塔そのものが望遠鏡というところに興味が沸くので、内部を見てみたい気持ちがあるが、道は遠そうだ。
さて、さらにテクテク歩いて、国立天文台三鷹キャンパスの通常見学コースの目玉であろう、大赤道儀室へ。
R2D2っぽくてイカすとも言えるし、実は私、R2D2 そんなに良いデザインと思ってないという気持ちもある。
この建物も国の登録有形文化財。
中に入ると、四の五の言わさず人を黙らせる65cm屈折望遠鏡の大迫力。
望遠鏡もすばらしいけど、造船技師に協力してもらったという木製ドーム屋根もすばらしい。
大赤道儀室は、現在では天文台歴史館という新しい名前を与えられており、この10メートルの望遠鏡をおさめた大きな建物であることを利用して、天文の歴史に関係する様々なものを展示している。
べつに天文や科学に興味なくても、アンティーク好きに刺さるでしょ?こういうの。ねえ。
こういうの刺さる人、少なからずいるでしょ?ねえ。
太平洋戦争末期の空襲で溶けたレンズ。ああ……ガラスのうさぎ……
それにしても、この宝石のような美しさはなんだ。待て、ガラスだこれは!石英だ。落ち着け!
ガラス玉とマンハッタン島を交換してしまった現地人の気持ち、わからなくもない。
さて、天文台歴史館を出て、ただの展示室なども軽く見たけど、ここは歴史的なものはないので、良く覚えてないし写真も無し。
昼飯を食べておらず、また、雨も降り出しそうだったので、このへんから、文化財指定がないものは端折る方向に向かっていた。
子午儀資料館。国の登録有形文化財になっている。
個人的には、これといって特徴のある建物には見えないが、観測時には切妻屋根が左右に開くらしいし、戦前に建てられたメカメカしい貴重な建物ということだろうか。
バンベルヒ子午儀。子午儀資料館は展示室としてはいまいちで、窓の光や蛍光灯の光のガラスケースへの写りこみが激しかった。
レプソルド子午儀。子午線上を通過する天体を精密に観測することが、当時においては時刻や緯度経度の測量に重要だったそうだ。
このレプソルド子午儀は 1880 年ドイツ製で、1881 年に海軍が 800 円で購入し、1888 年に東京天文台に移管された。 8が多いな!1と0と8しか出てこねえ!煩悩か!
レプソルド子午儀は 2011 年に、国の重要文化財に指定された。ドイツ製で、購入しただけであり、国の…?と一瞬、思ったけど、それ言い出したら正倉院の宝物とかだいたい国外製品だった。
レプソルド子午儀室を出たら、次はゴーチェ子午儀室だ。これも国の登録有形文化財。
こちらは形も私の好みで面白い。しかも個性を出そうとしての、この形なのではなく、観測のために最善の設計をして、この形なのだ。そういうところが非常に素晴らしい。
こういう朽ちていく感じが、また良いんだよね。いずれは修理されちゃうんだろうけど。
1903 年フランス製で2万円で購入したという。レプソルド子午儀が 1881 年に 800 円。20 年ですさまじいインフレがあったらしい。
1982 年には第一線を引退したとあるが、第一赤道儀室や大赤道儀室の望遠鏡にくらべたら、80 年近くお勤めしていたわけだからすごい。しかも 1992 年には CCD を装備してクエーサーの観測に再び活躍したというのだから、もはやベトナムでは伝説だった凄腕の老兵といった感がある。
そして、感心しながら建物を出ようとしたとき、突如、演奏会は始まった。
揺れた。
2016年7月17日 13時28分。茨城県を震源とするM 5.0 の地震が発生したのである。震源地の震度は4。
http://www.tenki.jp/bousai/earthquake/detail-20160717132411.html
三鷹での震度は3だった。
私だって地震慣れした日本人だ。震度3くらいでびびりゃあ、しない。そりゃあ 1925 年に建てられた耐震設計されてない建物だけど、そうはいっても平屋だし、なにより、出口付近にいたのだ。ミシミシ言い出したらすぐに逃げられる。
しかし、聞こえてきたのはミシミシ音ではなかった。
カシャン……キン……シャン……カン……コン……ガシャン…ガシャ…
それはそれは美しい、体験したことのない心地よい不協和音だった。
映画やマンガや小説でよくある、廃遊園地や廃工場が、なにかのはずみで一斉に動き出す、幻想的なシーン。あれを彷彿とさせた。
揺れているは、地震がまだ続いているのか、自分がめまいを感じているのか。
そのスペシャルなサプライズ演奏会は、だんだんとフェードアウトし、地震から1分もしないうちに、建物の中はふたたび時が止まった。
この日、自分がこの出来事について、つぶやいたことだけは覚えている。その日の夜に書き込んだ私の感想はこうだった。
100 年前の建物の中で 19 世紀生まれのレプソルド子午儀がガシャン、がらん、カチン…と金属音を鳴りひびかせている様は、自分がブラッドベリの世界に迷い込んだと錯覚させる力があった。いい体験をした。
まちがえた。私がいたのはゴーチェ子午環室なんだから、鳴ってたのはレプソルド子午儀じゃなくてゴーチェ子午環だ。
https://mobile.twitter.com/mitimasu/status/754648412377657344
ブラッドベリとな!ハハッ!大げさすぎる。が、この大げさな書き込みを恥ずかしげもなくやってしまったところが、このときの感動がマジモノだった証拠となっている。
さて、このあとは、とりたてて、書くことは残っていない。もう、精神的な胃袋はお腹いっぱいだった。そして、肉体的な胃袋は昼飯抜きのままであり、鑑賞より食事を優先するよう体が訴えていた。
なお、天文機器資料館はスルーした。
文化遺産オンラインによれば、第一子午線標室、第二子午線標室が国の登録有形文化財に指定されているが、どちらも見なかった。国立天文台の施設案内にもないし、おそらくだが、一般人が立ち入りできないエリアにあるのではないか。
そんなこんなで、理系じゃなくても天文好きじゃなくても、歴史好き、建築好き、アンティーク好き、メカ好きなどなど、およそ知的好奇心がある人間なら必ず刺さるスポットだと思いました>国立天文台三鷹キャンパス。
>公開施設 | 国立天文台(NAOJ)
https://www.nao.ac.jp/access/mitaka/facilities/
いやほんと、マジでこれだけ見れてタダとかコスパ良すぎでしょ、ここ。
そんで、私はこのとき、何の予備知識もなく普通に訪れただけだからわからなかったけど、公開日が定められていて、申し込みが必要で、先着順で人数制限のある、4D2Uドームシアターというものもあるのだと、今日、このエントリを書くために国立天文台のサイトへ行って知った。
国立天文台 4D2Uドームシアター公開
https://prc.nao.ac.jp/4d2u/
三次元に宇宙が見えるシアター!(※時間軸を足して4D)。これアレか!モビルスーツのコクピットの全方位ディスプレイみたいなやつか?見たいわー、それは見たいわー。
国立天文台、訪れたのは夏だったけど、あれだけ樹木があれば、紅葉もきっと素敵だよね。4DU2、申し込んでみようかな……。またチャリで三鷹まで行くの、しんどいけど(なぜはじめから公共交通機関を捨ててかかるのか自分)